当センターについて
手の外科とは人間の体の中で最も緻密で最も鋭敏な感覚を持つ"手"についての治療を行なっている分野で、マイクロサージャリーとは手術用顕微鏡を用いた繊細な手術になります。当センターは日本手外科学会認定の手外科専門医の基幹研修施設であり、日本手外科学会専門医が2名在籍し、手指骨折や四肢切断などの外傷直後の治療から、外傷だけに限らず組織の欠損によって損なわれた機能を回復するためにマイクロサージャリーを駆使した手術治療を行っています。
骨折/切断を代表とする外傷治療については可能なかぎり解剖学的に(元の形状に)修復することを目標に治療を行っています。現在までに切断肢指再接着(切断された手指をつなぎ合わせる手術)症例は累計350例480肢指をこえる経験を有し(この数年は30−40例/年)、生着率90%以上を維持しており、足趾移植・皮弁移植・血管柄付骨移植(栄養する血管をつけて"生きた"骨を移植する方法で早期の骨癒合が期待できる)などによる機能再建手術も積極的に行っております。
なお、切断指の治療に当たってはマイクロサージャリーの技術をはじめとする特殊な手術となることが多く、対応できる施設・医師が限られます。その状況に対応すべく通信回線を用い損傷部位の写真を基に搬送先を決定するテレトリアージシステムが昨年度(平成26年)より愛知県全域で導入されています。このシステムにおいて当院は三河地区を担当しております。
切断指再接着以外でも手指の運動を行う腱・神経の障害(ばね指と言われる腱鞘炎や手根管症候群/肘部管症候群など)に対しても積極的に治療を行っています。末梢神経障害では年間約600件の電気生理学的検査を背景に、最も頻度の高い手根管症候群に対しては内視鏡的手根管開放手術を1997年導入し、以来500例をこえる実績があります。手については顔と同様に衣類に被覆されない部分であり、外見的なことも考慮して上肢・手に関連する全般的な障害について扱っています。具体的には仕事やスポーツなどでの使い過ぎによる障害(テニス肘など)も数多くみられるものであり、これらに対しての治療をはじめ、加齢や疾患による指の変形(ヘバーデン結節/ブシャール結節/母指CM関節症など)についての治療にも取り組んでおります。
また、昨年(2013年)より手関節鏡および肘関節鏡システムを導入しました。内視鏡手術を行うことによって低侵襲でかつ繊細な操作が可能です。上肢の骨折の中ではもっとも多いとされる橈骨遠位端骨折への応用をはじめ、手舟状骨骨折偽関節の治療、三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷・手根靭帯損傷などの軟部組織損傷の治療、そして野球肘・変形性肘関節症などの肘関節の障害についても関節鏡を用いた治療に力を入れています。
手の手術には成績向上のためにリハビリテーションが必要であり、複数名在籍しているリハビリテーション作業療法部門のハンドセラピストとの緊密な連携により、患者さんの早期機能回復に努めております。新生児乳幼児の手・上肢の先天的障害(多指症、合指症、裂手症など)に対する治療経験も豊富です。診療だけではなく、日本手外科学会・日本マイクロサージャリー学会をはじめとする学会活動や執筆活動を積極的に行い、この分野の発展に貢献しています。また、名古屋大学手の外科学教室と連携してコンピューターシュミレーションを利用した治療を代表とするより高度な治療にも取り組んでいます。