1. T細胞は、がんとたたかうことができます

 リンパ球にはT細胞、B細胞、NK細胞などがあります。T細胞には、からだに存在してほしくない異物を攻撃する機能を備えています。T細胞はがんに直接的に作用していると考えられています。

  1. がんの目印(がん抗原)に反応するアンテナ(T細胞受容体)をもっているT細胞ががんをみつけます。
  2. がんをみつけたT細胞は、がん抗原を介した刺激で活性化します。
  3. 活性化したT細胞が、がん細胞を攻撃します。

2. でも、がんとたたかうことができるのは、ほんの一部のT細胞

 がん抗原に反応するT細胞受容体をもっていないT細胞は、がん細胞とたたかってくれません。また、がん細胞は目印の形をかえて、T細胞から逃れることもあります。

3. CARとCAR-T細胞

 体の中のT細胞の多くはがんとたたかうことができません。

 しかし、がん細胞に反応するアンテナを人工的に作ることができます。

 しかも、このアンテナは、T細胞を強くする機能も兼ね備えています。

 これをChimeric Antigen Receptor(キメラ抗原受容体:CAR)といいます。

 遺伝子導入の技術によって、T細胞にCARを取り付けることができます。

 CARを取り付け、がん細胞を見つけてたたかえるようになったT細胞がCAR-T細胞です。

 ふつうのT細胞をたくさんのCAR-T細胞に改良して、がんとたたかう治療がCAR-T細胞療法です。

4. CAR-T細胞療法のやりかた

<CAR-T細胞の作製>

➀リンパ球採取

 CAR-T細胞を作るための患者さんご自身のリンパ球を採取します。両腕の血管から、または中心静脈に留置したカテーテルから血液を体の外に出して血液成分採血装置を用いてリンパ球を採取します。

➁リンパ球輸送

➂CAR-T細胞作製

④CAR-T細胞輸送

 採取されたリンパ球は、病院から専門の輸送システムを使い、最終的には凍結保存されて海外のCAR-T細胞製造工場まで輸送されます。輸送から、製造、品質確認を経て日本への再輸送まで1か月以上かかります。

患者さんの治療

1. 橋渡し治療

 CAR-T細胞の作製から輸注まで、1-2ヶ月程度の期間を要します。その間、病気の状態を安定させること、できるだけCAR-Tを投与するときの、がん細胞の量をへらすことが、CAR-T細胞療法の有効性を高めるために重要です。病気やからだの状態に応じて、抗がん剤や放射線による治療を行うことがあります。

2. リンパ球除去化学療法

 CAR-T細胞が完成したあとで、CAR-T細胞療法実施のために入院してから行います。CAR-T細胞を投与する数日前から、リンパ球除去化学療法を行います。リンパ球除去化学療法を事前におこない、からだの中にもともとあるリンパ球をへらすことで、投与されたCAR-T細胞が体のなかで増えやすくなり、長い期間がん細胞とたたかうことができるようになります。

3. CAR-T細胞投与

 投与の前にアレルギー予防のための薬を内服します。CAR-T細胞は、医師によって静脈内に投与されます。投与は約30分以内に完了しますが、そのあいだ心電図や酸素飽和度などを確認します。

投与後数日間は、発熱や、血圧、酸素、意識などからだの状態を慎重に観察していきます。症状に応じた適切な処置を行います。状態が安定しましたら、退院が可能になり、通院でからだの状態やがんの状態を確認していきます。

Q and A

Q. CAR-T細胞療法の適応になるがんは、何ですか?

A. 2023年11月現在、当院で実施可能なCAR-T細胞療法の適応疾患は、一部のB細胞性悪性リンパ腫です。また、標準治療で効果が不十分、または再発された方が対象です。他にも様々な基準があります。お体や病気の状態等によって実施できる方は限られます。

Q. 安城更生病院ではどの種類のCAR-T細胞療法が受けられますか?

A. 2023年11月現在、当院で実施可能なCAR-T細胞療法は、ブリストルマイヤーズ・スクイブ社が提供するブレヤンジ®という薬です。

Q. CAR-T細胞療法は健康保険が使えますか?

A. CAR-T細胞療法は公的な健康保険で実施可能な治療です。大変高額な治療ですが、高額療養費支給制度の対象となります。手続きおよび自己負担につきましては患者さんが加入されている保険の種類などによって異なります。

Q. CAR-T細胞療法をおこなえば、必ずなおりますか?

A. CAR-T細胞療法によって、これまで難治であった方の一部に治癒される方がいます。しかし治療の効果はそれぞれで、一時的に効果がえられても、病気が再度進行する場合もあります。また、がんが良くなった場合でも、治療にともなう合併症が起こること、時として命に危険が生ずることもあります。

Q. どうすればCAR-T細胞療法を受けられますか?

A. 当院通院中の方は、主治医に確認ください。また、他院通院中の方におかれましては、主治医から当院へ相談・紹介をしていただく必要がございます